2004-04-20 バレーボール☆ [長年日記]
BALKH
今日もとりとめのないサッカーをしていた。バディアライから声がかかる。「おれたちがするバレーボールを見にこないか?」。オレオレサッカーにも飽きてきていたので、暇つぶしに行ってみるかー、とタクシーを待った。アフガンはタリバンが駆逐されてから、やっとスポーツ文化が復興されつつあるのだ。いま、育ち始めているスポーツを見るのは、とても興味深い。キーッ。目の前に止まったのは一台のタクシー。バディアライを含め、寄ってたかって交渉する。どうやら激安プライスで決着したらしい。でも、一台だぞ?半信半疑でオレとヨシヤを先に乗せてくれた。が、しかし!なんと全員でムリヤリ乗り込むことになった。チームの6人、サポーターのおっさん、オレとヨシヤ、ドライバー。合計10人がただのボロカローラに乗り込む。前が4人、後ろが6人。ピカソの絵のような状態で底を打ちつけながらタクシーは走った。
バレーコートはミサイルでぶっつぶされた遺跡の中庭に建てられていた。取り囲む観衆。どうやら今日はアウェイでの試合のようで、村対抗のカップ戦だという。ん?ウォーミングアップを見ていると、やたらとみんなうまいぞ?
試合が始まった。ファミコンゲームのような、勢いのない単調でマヌケな笛で試合が始まった。プピーーーー。敵はバランスの取れた陣形、バディアライ側はセッター一人を前におき、5人をレシーブ兼スパイクに回すという陣形だった。敵のサーブ。長身の兄ちゃんが勢いのあるジャンピングサーブを拾う。ゆるく理想的な曲線を描きながら落ちてきたボールにセッターが身構える。前をアタッカーが走る。敵は2人のブロックをそちらに寄せた。そう見るやいなや、セッターは後ろにトスをする。低い軌跡を描いてコートの対極を目指したボールは、バディアライによって会心のスパイクに生まれ変わった。コートに爆風を巻き上げるボール。弾んだボールは後ろに止めてあった自転車の群れをなぎ倒した。
バディアライのサーブ。かなりの速度だ。しかもボールはネットの上を通過してから、揺れて落ちた。選手の目も観衆の目も着弾点に釘付けになる。一瞬の沈黙の後、アウェイに位置する少数サポーターがわきあがった。次のサーブ。今度は伸びる球だった。しかし、敵もさるもの。きちっと受けてアタックへとつなぐ。ボールは5人のレシーバーのわずかな隙間を縫い、弾み、そして後ろのケシ畑に消えていったのだった。子どもが走る。しばらくして「ボール見つけたよー」と、ケシの草汁がついたボールを持ってくる。おいおい、摩擦熱でキマってしまうぞ。ゲームは進む。ん?周りがハシッシくさい。そう、観衆のほとんどが一服をきめこんでいたのだった。ボールに注目しまくる観衆。それは凝視という言葉では足らないほど真剣な表情だった。きっとあらゆる動きをするボールに心を射ぬかれたに違いない。
シーソーゲームを繰り返しながら、少し敵のほうにゲームが流れ始める。向こうには、よく拾うヤツとムキムキアタッカーがいるのだ。ボールをケシ汁まみれにしたムキムキは渾身の一撃を放った。が、手元が狂ったのかボールはあさっての方に飛んでいく。着弾した先は遺跡の壁だった。ボゴッっと壁が崩れ落ちる。そのときチリンチリンと、買い物帰りのアフガン人がチャリに乗って遺跡の横をとおっていった。か、隠れキャラだ…。これはファミコンの世界だ…。
ゲームには負けた。チームメイト数人と、サポーターのオヤジと、バディアライと…。とにかく数人で歩いて帰った。夕暮れ間近の道を。悔しかった。サポーターのオヤジはずっと黙ったままだ。もちろんキマっているのではない。村の代表が負けたのだから。とぼとぼとどうでもいい会話をしながら帰る。ジュースを買いに商店に寄る。バディアライが言った。「おごらせてくれよ」。チームのみんなもそうだろうけれども、異国から来た友人の前で勝ちたかったのだろう。僕らはイランから流れてきているアップルジュースを飲みながら、またとぼとぼと帰路についたのだった。