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sawadee!!紀行+


2008-08-30 ピンクの花は微笑まない [長年日記]

okurayama_yokohama

みなさん、タリバンやその周囲のイスラム原理主義組織がペシャワール会の伊藤さんを殺害したと思っておられるでしょうか?アフガンのニュースを何年も見てきて、(まだ10年ほどですが)実際に足を運び、この国について調べまくった経歴のある私の見解は「NO」です。

犯人は誰か、ということの前に、まずタリバンをはじめとする組織が犯人でない根拠について書き、誰が怪しいのか書きます。

●二転三転する犯人の供述
これまで各国でイスラム原理主義組織に拉致された方々のニュースを思い起こしてください。彼らの主張は、いつもひとつの主張に集約されます。
・政治犯の釈放
・資金の提供
・アメリカなどの軍隊の撤退
・政権に対する不満
これらの要望の中から、必ずひとつ選んで交渉します。理由は簡単です。ひとつに絞らないと交渉が成立しないからです。今回はどうでしょう?捕まった二人の供述は金だったり、アメリカ軍の撤退だったり、一貫性がありません。これは、とても珍しいことです。つまり、交渉することが目的じゃなかった可能性があります。

●犯行声明の出元が不確か
また、犯人は犯行を越した後、声明を出します。その犯行声明を出す団体は、ほとんどの場合、wikipediaなどで調べると何らかの情報が出てくるほど名前の知られた団体です。そうでなければ、交渉が優位にならないからです。今回はどうでしょう?タリバンとつながりのある、、、何て団体だっけ?という感じ。マイナーな団体というよりは、ペーパーカンパニーのような印象。

●ペシャワール会は日米の鼻つまみ者
2001年に日本の国会で「テロ特措法」の審議中、ペシャワール会代表の中村医師は証人喚問を受けています。その場で彼はアフガン空爆や自衛隊派遣について「有害無益」であると述べています。このことで、テロ特措法成立を望んだ側から「売国奴」「タリバンの手先」とまでののしられています。
ペシャワール会のホームページはこちら
タリバンの手先と言われてしまう団体の職員がタリバンやそれに近い団体から殺されるでしょうか?

●ペシャワール会をタリバンは認めている
2001年といえば、タリバンがアメリカから物資や武器、資金の提供を受けて勢力拡大し、アフガニスタン全土をほぼ制圧した頃です。その頃にもペシャワール会は活動しています。つまり、ペシャワール会はタリバンを含め、歴代のアフガニスタン政府から存在を認められ、活動を許可されている団体と考えられます。タリバンは確かにいま外国人排斥を目指していますが、彼らは実績からまったく別のポジションにいます。

●2001年アフガン空爆で緊急食糧援助
アメリカがテロとの戦いという胡散臭いことを始めてすぐアフガニスタンは空爆されました。そのときに緊急食糧援助をしたのは他ならぬペシャワール会です。その前からあった風潮ですが、このことでさらに「ペシャワール会には手を出すな」という現地の暗黙ルールが形づくられていきます。

●パシュトゥンワーリーは破られない
パシュトゥンワーリーとは、援助国の意見やらアフガニスタンの国の法律などよりもパシュトゥン人には大切な掟(=暗黙の了解)です。破れば一族郎党まで死を迎えることもあるほどで彼らは絶対にこれを破ろうとしません。氏族ごとに独自のパシュトゥンワーリーがあり、特に大切なことに関しては、長老同士の集まりでそのエリアのルールが定められます。
「ペシャワール会には手を出すな」は、まさにエリアでのパシュトゥンワーリーなのです。もし伊藤さんを殺したのが普通のパシュトゥン人やイスラム原理主義のパシュトゥン人(タリバンとか)なら、ペシャワール会はパシュトゥン人に対して何らかの裏切りをしたことになります。そして、ペシャワール会はおそらく何も裏切っていない。
このことから、タリバンを含め、通常のパシュトゥン人ではないことが分かります。さすがのタリバンも、アメリカは怖くなくとも氏族の長老たちの反感は、絶対に買わないでしょう。

●では、灌漑工事が完成して困るのは誰?
灌漑工事が完成すれば、農業で食糧も作れるし、水は確保できるし良いことづくめなのに、なぜ殺されてまで脅されたのか。その理由はひとつです。
灌漑ができる→食べ物ができる→アフガン人にゆとりができる
この構図を嫌うのは、ただひとつ。ずばり、安値でケシを作らさせ高値で売りさばいている連中です。知らない人には意外かもしれませんが、タリバンはケシの栽培を禁止していました。(歴史事実)理由は、吸ったらパーになるからではありません。作ると、ケシを買い取る連中=外国人の言いなりにアフガニスタン国民が堕してしまうからです。
でも、現在その禁止事項は、カルザイが大統領になって以来、有名無実化してしまいました。カルザイはユノカルというアメリカ石油メジャーで元特別顧問にいたとまことしやかに囁かれています。かつブッシュ政権の代理人です。
もう、ここまで書けば、犯人は明らかでしょう。


この実行犯が予想外だったのは、伊藤さんがジャララバード周辺の人たちから考えていた以上の支持を集めていて早めに足がついてしまったこと。村の人たちが一致決断して救おうとして、逆に焦らせてしまい撃ち殺されてしまったのはとてつもなくやるせない思いになります。
よっぽどタリバンやその周辺がやったという根拠が出てくるまでは、自分は、自分の肌で感じたアフガンの事実と、知っていたこと、今回調べたことから導いたこの結論を信じます。
まだまだアフガニスタンについては知りたいことが多いので、反対意見の人でもそこらのニュースソースでないソースや論理展開がある方のご意見も聞いてみたいです。

アフガニスタンのケシ