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sawadee!!紀行+


2004-02-01 チャダルトレック2日目 [長年日記]

どこぞの洞窟→野宿

氷は安定している。ということは、当然ながら気温は低い。午前中はたくさんの洞窟を発見した。大地の隆起と侵食が常に同時進行しているらしく、洞窟の下部にはさまざまな大きさの石がゴロゴロと落ちている。そのうちのひとつの洞窟が興味深かった。手前には看板が立ち、タルチョに飾られた洞窟。中に入ると、さらにタルチョは増え、その真ん中には昨年の11月に亡くなったボグラリンポチェの写真が祭られている。ガイドのスタンジンによると、ボグラリンポチェがメディテーションの修行をしたところで、ラダックエリアの人にとっては大変にありがたい場所だという。

午後は、ひたすら景色のいいところを歩く。氷が強いので、その景色を見る余裕がある。崖に地層が現れていて、アメのようにぐにゃりと褶曲しているところもあれば、天にまで突き上がってすっぱりと切れているところもある。そう、この地は年間数センチずつ宇宙に近づいているのだ。谷をどんどん進むと谷の切れ目の向こうにでっかい山が現れた。草木は生えていないので、黄土色だけの山。高さは相当ある。雲がぶつかっては砕けて、谷の稜線の向こうまで風に流されていく。山のふもとを右に折れてしばらく行くと、谷間のキョリが5メートルほどのところに出た。氷はガチガチ。ちょっとだけ休憩を取る。景色がいいところで休むと、なぜか体力が回復する。不思議なものだが、本当にそうなのだ。人間にはまだまだナゾの部分が多い。しかしながら妙に納得もできる。きっと、それが自然な行動だからだろう。15時ごろから氷の幅が狭くなり始める。洞窟は点在しているけれども、あまりに標高が高いところにあるので停泊する気にはなれない。

風が強まってきた。18時、ついに氷がなくなる。洞窟はない。ここを高巻きしなければ、前進はありえない。が、暗くなり始めていた。そのことをふまえながらも、みんなで野宿を決定した。テントはひとつ。自分が持参したものだが、最も品質のよい寝袋を持つ自分が外で寝ることにした。寒さでたまに目が覚める。オリオン座は少ししか動いていない。こいつが西の空に沈まない限り耐えるしかないのだな、と変な納得をして何度も寝た。日本は特に恋しくもない。いま自分は地球とつながっているという安心感を持っているからだ。ゴーーーと流れる川の音。バサバサと色気のない音を立てる寝袋のエッジ。鼻の頭をかすめていくマイナス何十度もの大気。ザンスカールは近づいている。確実に。一歩ずつ。空気が変わりゆく。