2007-01-11 死にそうになったこと [長年日記]
okurayama_yokohama
ごっつい久しぶりにインドはラダックのヒマラヤ山中にある凍った川を歩いた盟友、TAKAから電話がかかってきた。なんでも仕事の関係で土曜日に東京へ来るそうな。うむ、これは川二郎か岸田屋に決定だな。
TAKAとの3週間ほどの思い出の中で、最も記憶に残っているのはギャルモスティンというポイントでのことだ。ザンスカール川が大きく曲がっているため流れが早く氷が張りにくい難所なのだが、自分達の時も案の定、氷が張っていなかった。崖を大きく登って迂回しなければならなくなった。その絶望というか苦労への予感が確定したとき、自分達はギャルモスティンの数百メートル手前にいた。
「あそこの崖から登るぞ」とガイドのスタンジンが言ってから、崖の手前までにまずひとつの難所。川の水面が見えている寸前まで行くということは、氷が薄くなっていることを意味する。白かった氷がどんどん川の色に近くなっていく。バキンバキン割れていた氷は、湿ったミシリミシリという音に変わっていく。ついには川の流れが足元に見え始め、踏んだところから浸水していくようになった。
U字谷に流れる川に張る氷は、川縁だから分厚かったり安全だったりする保障はない。ときには中央部分の氷が最も分厚かったり、川縁でも氷が避けて落下してしまう恐れがある。また、氷の張った流れの早い川に落下するということは死亡を意味する。寒さもあるが、流されてからでは氷がジャマで空気を吸うことができないのだ。これまで安定した氷を歩いてきたことを思い出すと、一度落ちたら生存はあり得ない状況だった。
あと数十メートルのところで限界がやってきた。4人パーティーで歩いていたのだが、もっと4人の距離を離さないと氷が落ちてしまいそうだったのだ。最初に氷の安全を確かめるためにスタンジンが、次に最軽量のソンブーがソロリソロリと氷を選び、陸地に上がった。その衝撃で氷の上には水が浸水してきている。歩いている順番から次はTAKAが行くことになった。結果から言うと、TAKAは陸地に渡ることができた。しかしながら、飛び乗るときの衝撃で陸地近くの氷が割れてしまったのだった。
自分はもっと遠いところから陸地に飛び乗ることになった。距離的には不可能なので、これまで引いてきたソリから荷物を降ろし、ソリを浮島に渡る作戦を我々はとった。いま思い出すと、それができたら忍者である。でも、自分たちにはその方法しかなかった。ソリのおかげで全身が濡れるのは避けることができたが、腰の上まで浸水しまった。なんとか上半身は何枚か着ている服の2枚目くらいまでの浸水でこと無きを得た。しかしながら下半身は大ダメージ。急いでザックから新しいズボンと靴下、ビニール袋を取り出す。ビニール袋は水を吸ってしまった靴と靴下を分離するためである。手早く着替えたのだが、脱ぎ捨てた衣服と靴はすでに凍っていた。恐るべし、大自然。
冷たくてグチュグチュになった気持ちの悪い靴を履き、斜度50度以上の岩とレキの急坂を登攀。砂がグリップするところもあれば、砂のせいで滑ってしまうところもあったが、注意して歩けばなんとか行けるところであった。最高地点を過ぎ、坂道を降りていく。我々は愕然とした。3〜5mの滝が連続している崖!眼下には最後の15mほどの滝が小さく見える。これをノーロープで降りるのか…。そろりそろりと滝の上の平らな部分を渡りつつ安全なサイドの崖を降りていく。何度目かの氷の上で突然、天空が見えた。夕焼け後の鉛色の空。それまでの晴天で生き生きとしていた色を失った崖。死んだ、と思った。滝を何個も落ちながら崖に叩き付けられ100mくらいの標高差を落ちるのだと思った。そのとき力強い手が伸びて自分のザックを引っ張り上げた。ガイドのスタンジンだった。
その後、何度も立ち止まりながら暗くなった崖を死にものぐるいで降りきった。こんなところでは野宿はできない。が、崖の脇に小さな裂け目を見つけ2人分くらいのスペースに4人が寝た。斜めになっていたのだが、上のものからはズリ落ちてくるし、下のものからは「重たい!」と小突かれる。そんなことを思い出した。
願わくは生きている間にパーフェクト状態の氷を歩いてみたい。インド軍が道路を作ったり、地球温暖化でこのシルクロードは必ず死ぬ。だから現状が残っているうちに。
※詳しくは2004年1月末や2月上旬に書いています。
ルポもの見てるみたいで<br>臨場感溢れてるなあ。<br><br>個人的にはもっと「!」で終わった方が好きかな。<br><br>と、ド素人がモノカキに校正を言う不思議。
えー、「!」って格好悪いとおれは思うんだけれどなぁ。<br>ひとつくらいはあっていいかもね。<br>問題としては、jun君の心におれの書いたものに<br>「!」と思わせるところが少なかったってことかな。<br>日々、精進ですわ。
「神々のイタダキ」夢枕獏を思い出しました。大切な失わゆく景色の空気を感じて、凛とさせていただきました。
たしかに「!」があると目撃ドキュンみたいで<br>ハードな文体には合わないかもしんないっすね。<br><br>文章はすごいおもしろかったですたい。<br><br>書き方によってこんなに視点が変わるんやなと<br>ええ勉強になりましたわ。<br><br>文章うまくなりたいなあ。
よういち><br>白骨化したマロリーには出会いませんでした。この旅、ちょっと世の中には大きく出せないよ。ノーロープで滝を降りるって、ありえないもの。ラダック人すごいです…。<br>jun><br>「!」て何か特攻の拓みたいやwまだまだ勉強中のおれが言うのもなんだけど、jun君はどこかでバキッとうまくなったよね。でも、もうワンステップ上がりたいっておもってるんちゃう?ただ、方法はおれも分からんのです。分かればおれも実践して、著書何冊も持ってるっちゅうに。てことで、できるだけ無理矢理にでも日記を書いて、肥やしにしてます。